神経細胞は,生物の体や精神を理解する上で非常に重要な要素です.神経細胞同士はシナプスで接続されており,全体として巨大な神経網を形作っています.この神経網の構造を理解することは,生物の身体的・精神的疾患を理解するために重要なことの1つです.
近年,神経網の理解のために,生物の神経系内の神経細胞の包括的な接続マップ(コネクトームと呼ぶ)を研究するコネクトミクスという研究分野が注目を浴びています.現在,コネクトームが完全に解明されている生物は線虫(Caenorhabditis elegans)のみです.線虫の神経系は以下のような特徴があります.
・ 身体のサイズが小型である.
・ 神経細胞は302個.
・ 結合性も個体差が少なく,ステレオタイプである.
・ 身体のサイズが大きい.
・ 非常に多くの神経細胞からなる.
・ 神経細胞の結合性に多様性がある.
コネクトーム推定の1つの手法として,電子顕微鏡を用いて三次元的に撮影された画像を用いる手法があります.連続切片の形で撮影された細胞片の多数の写真に対して,一枚ずつ,神経細胞とその突起,結合性を逐一トレースし,全体を再構築していくものです.この神経細胞のトレースは従来専門家の手により行われていましたが,その作業コストと専門性の高さが問題となってきました.
そこで,本研究では,この神経細胞のトレースを画像認識、特にインスタンスセグメンテーションと呼ばれる手法によって代替することを考えています. 実現すれば,作業コストの削減ができ,更にコネクトーム研究が進むことが期待できます.
また,本研究では,セグメンテーション手法として段階的に処理を行う手法を用いています.一般画像では,深層学習を用いてEnd-to-Endでセグメンテーションを行う手法も多くありますが,神経細胞画像はその画像の性質上難しいとされており,段階的に処理を行う手法がよく用いられます.
処理中には深層学習(U-Net)を用いる部分もあるため,技術の実用化にあたって,学習のためのデータ不足の問題等も解決することが求められています.
※ 図4の手法
Kisuk Lee, et al. “Superhuman Accuracy on the SNEMI3D Connectomics Challenge”, arXiv:1706.00120, 2017.
※ 図5:U-Net
O. Ronneberger, et. al. “U-net: Convolutional networks for biomedical image segmentation.” MICCAI 2015