脳の電流源推定

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図1:電流源推定は脳内をメッシュ状に空間離散化し,メッシュ点それぞれに電流源があると仮定してその電流源の強度を求める問題である.センサの数Nに対して推定する電流源の強度の数Mが非常に大きくなり,解を一意に決定することができない.



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図2:Deep Priorを用いた電流源推定 Deep Priorを用いることで明示的に事前分布を与えず電流源推定を行う.畳み込みを含むニューラルネットワークの出力を電流源の強度と見なして,その電流源がセンサの位置に発生させる磁場を実際の観測値に近づけるようにネットワークのパラメータを更新する.


脳の信号で機械を制御するBCI(brain computer interface)の発展や臨床応用,脳の局在性の解明のために,音を聞くなどの刺激があったときに脳のどこが活動しているかを解明することが必要です.脳が活動するとき,イオンが移動することによって電流が流れることから,脳の活動源を推定する問題は電流源を推定する問題と捉えることができます.この問題は電流源推定と言います.

 脳磁図や脳波などの非侵襲計測手法の計測データから電流源を推定しますが,測定手法のセンサ数が電流源を推定するために必要な数よりも非常に少なく,電流源推定は解が1つに定まらない不良設定問題になります.そこで電流源推定の従来手法は事前分布(制約条件)を明示的に与えることによってこの問題を解決しています.

 しかし,電流源の分布は不明であるため明示的に与えるべきではありません.例えば電流源推定の代表的な従来手法であるMNE(minimum norm estimation)は電流源の強度の和が最小になるという制約条件を持ち,この条件により電流源がより浅く(頭皮に近く)なるように推定されるので深い場所の推定は困難になります.我々はDeep Priorを用いることによって事前分布を明示的に与えることなく電流源推定を行う手法を提案しました.Deep Priorは畳み込みを含むニューラルネットワークが事前分布の役割を果たすという考えに基づいていて,画像のノイズ除去や,2次元画像から3次元の形状復元,構造最適化などの不良設定問題を解く手法として近年注目されています.

 実験では実際に音を聞いたときの脳磁図のデータを用いて電流源を推定しました.聴覚野と知られている部分の周辺に電流源を推定していることから,畳み込みを含むニューラルネットワークが十分電流源の事前分布の役割を果たすことができると考えられます.